東京地方裁判所 昭和38年(ワ)10896号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕弁護士費用。原告は本件訴訟を弁護士に委任し、その訴提起から終了まで手数料及び報酬として金一四万円を支払うことを約した旨主張し、証人趙武祖の証言及びこれにより成立を認めるべき甲第六号証の記載をあわせればそのうち手数料金五万円はすでにその支払を了したことを認め得る(報酬の金額については証拠なし)。しかし右弁護士費用は右予告登記の抹消等を訴求することによるものとは異なり当然には本件被告らの不法行為ないし債務不履行によつて生じたものというべきでなく、これによつて生じた損害賠償債権の実行のための費用であり、換言すれば被告らが負担した金銭債務たる損害賠償債務を任意に履行しないため、これを強制的に実現するための費用である。法は原則として、一方においてはかかる権利の強制的実現のための費用の賠償は法定の範囲のものに止めるものとし(民事訴訟費用法参照)、他方金銭債務の不履行については一律に法定利率による遅延損害金のほか損害賠償を認めないものとしている(民法第四一九条参照)。従つて他に特段の事情のない限り右弁護士費用は本件における被告らの不法行為ないし債務不履行にもとずく損害としてこれを請求し得ないものと解するのを相当とする。
最後に被告福入商事、同東、同栄家興業の過失相殺の主張について判断するに、本件において原告がその売買の目的物件の状況について自ら調査をせず、とくに登記簿の閲覧等による予告登記の存在を知る機会をもたなかつたことは明らかであるが、右売買にさいしては原告は正規の取引業者としての被告栄家興業に仲介を委託し、これに委託手数料を支払つているのであつて、このような場合一般に買主は仲介人を信頼し仲介人においてあやまりなく売買の目的を達するに支障のないよう配慮してくれるものと期待するのが通例であるから、たとえ買主自らが登記簿を閲覧する等の手数を怠つたとしてもあながちに非難すべきものというを得ず、これをもつて原告に過失あるものとするを得ない。(浅沼武)